「な、なに…!」
今度のは口パクじゃない。
だからさっきよりも分かりやすく早く伝わってるはずなのに、
速水さんは何も返事してくれずに
ただ顔を私のにぶつかる勢いで近づけていく―――
「っ!」
ちかい……!
思わず目を閉じた瞬間、
「ふたりで。」
耳元に速水さんの低温が響いた。
ふわっと苦い香りが離れていきながら速水さんがくすりと笑う。かぁっと勢いよく私の頬が上気する音が聞こえた。
な、長嶋さんたちに見られてたら…!
でもそれはいらぬ心配。
速水さんは、長嶋さんたちがメインルームの方を揃ってみている間の死角を狙って、
今のをやったみたい。
言葉にならない思いに私はまだパクパク口を動かして、
「キスだと思ったの?」
速水さんのその言葉に、また頬が熱くなる。
「う、うるさい!」
速水さんの胸かどっかを軽く叩こうとしたけれど、今はもう長嶋さん達がこちらを向いていらっしゃるからそれはできない。
速水さんばっかりずるい。
スーツのすそ引っ張ることしか私はしてないってのに。今日も彼のペースに振り回されっ放しだよ。
「来週の金曜夜、明けとけよ。」
ふわっと速水さんが表情を崩す。
「…意地悪じゃなくて、最初っからそうやってもっと優しく誘ってくださいよ。」
文句をボソリと言った私に速水さんはハハっと笑うと、
「カレー楽しみ。」
ただそれだけ言葉を残した。
狡猾そうに。


