「感銘受けてんな。」
浮かれてる私の頭を元に戻すように、ゴツンと彼は強めに小突いた。
「すみません。」
思わず叩かれた頭を手で押さえてしまいながら、私はそろーっと彼を上目で見る。
嬉しくて。
すると彼はじろっと私に向き直って、
「仕事でしてたら誤解されて大変なことになるかもだぞ、気をつけろよ。」
そう上司らしく私に告げた。
途端に私はしゅんとなる。
叩かれたって、嬉しいって気持ちでしかなかったのに、彼の言葉で一気に仕事でそんなことがあったらって、考えさせられちゃったから。
そうだよね、ついうっかりなんて仕事には通用しない。万が一ってことがないようにしなくちゃいけないんだ、速水さんは的を得てる。
「市田。」
と、彼が私の名前を呼んだ。
「嘘だよ、照れ隠しで言っただけだから。」
顔をあげて目が合うと彼は照れくさそうに視線を下にさげて、
「だから落ち込むな…。」
優しく私に告げる。
「ちゃんと夜だとは思ってたけど、朝行ってみていないの確認したらしたらで、変に焦ったから…。
本当に市田くんのかなって。」
「んで夜行ったら普通にいるし…、なんか気が抜けて。」
それだけ言って彼は手の甲で顔を隠しながらそっぽを向いた。
今彼が言ってくれたのはため息した理由らしかった。照れながらの不器用な説明。
彼の仕草とか表情の火照り具合が彼の心内を物語ってる。
あー、本当いちいちこの人は……
どきんと胸がうずいた。
あの意地悪な速水さんが、
私のことで今こんなに照れてるよ。


