「……餌付けしてるみたいだなぁ。」
「え?」
「嫌われた動物にエサあげたら懐かれたみたいに。」
言っていることが分からず、首を傾げた私に速水さんはふっと笑った。
「市田は子犬みたいだよね、キャンキャン吠える。」
一気にハハハと一人で笑い始めた彼。
ポカーンとする私を一切無視。
「もうサンドイッチ頼みませんからご心配なくです。」
べーっと舌を出したい気持ちだった。
空になったカップをごみ袋に入れて、私は立ち去ろうとする。
「市田。」
内心膨れていたのに、そんな気持ちとは反対に私の脚がぴたりと止まった。
「仕事中はねだってこっち見ないこと。」
驚いて振り返る。
速水さんの口元は緩んだまま。
「っ。」
違う、きっとこれは“これから”の注意じゃなくて。
告白されて意識して
ちらちらと速水さんを見ていた私を彼はからかって……。
「も、もう見ないのでご心配なくです!」
バタンと私は給湯室の扉を閉めた。
な、なんなんだ、なんなんだ。
本当に速水至ってやつは!
ガサガサ激しく音を立てるゴミ袋。
ボールのように固まった和紙を、私はまだ手に持ったままだった。