彼女が指輪をはずすとき

「大丈夫?三笠くん」

藤堂さんは小声で俺に囁く。

「は、はい大丈夫です。ありがとうございます。助かりました…」

「良いのよこのくらい。私はあなたの上司なんだから、部下が困ってたら助けるのは当たり前よ」

彼女はそう言って笑う。

見た目だけじゃなくて、心も綺麗で芯が通った人なんだな。
なかなかあんな風に、上司に意見できる人っていないはずだ。

俺は胸の鼓動がさっきよりも激しくなるのを感じる。
これはさっきの緊張が残っているせいではなく、彼女の微笑みのせいだ。
俺は確信する。

右隣にいる彼女から、薔薇の香りがしている。
この香りが、俺の鼓動を一層活発にしているに違いない。

ああ、綺麗だ。

前を見つめる彼女に、つい俺は見とれてしまう。
しかし嫌でも目にはいるのは、彼女の左手薬指に光るピンクゴールドの指輪だった。

どんな人が彼女を射止めたのだろう。
今まで深く考えなかった疑問について、急に気になり始める。

きっと藤堂さんに負けない素敵な男性なんだろうな。

俺は会ったこともない彼女の彼に嫉妬心を燃やしながら飯沼のジョッキを奪い、残り半分ほどのビールを一気に飲み干した。