「ほら三笠!俺と乾杯しようじゃないか」

部長は俺の目の前に、自身のビールジョッキを差し出す。
部長は早く飲めと圧力をかけるかのような、満面の笑みを浮かべている。
選択肢が残されていない俺はビールジョッキを手に取り、苦笑いを浮かべた。

「では…いただきます」

ジョッキからこぼれるかこぼれないかのビールを、俺は勢いよく飲み干す。
未だに旨いとは思えない味で、好きにはなれないなといつも思う。

「いい飲みっぷりだね~!じゃあもう一杯飲んでも余裕そうだな!すみませーん、ジョッキ一杯!」

まじかよ…。

部長は店員さんに向かって大声でビールを注文し始める。
これが社会人になるということなのか。

俺は到着したビールを次々と飲み干していく。
もう5杯目だ。
確かにお酒には強いが、この調子でいくと潰れるまで飲まされそうだ。

これから飲み会の度にこうなのか。
でも部長に逆らうなんてできないし、飲むしかないのか…。
そんなことを考えながら、6杯目のジョッキを手に取ったそのときだった。

「部長」

高めの通る声が聞こえて、ざわついていた他の社員達が一斉に会話を止めた。

「何だね藤堂くん」

藤堂さんは自分の座っていた席から立ち上がり、ゆっくりと部長に歩み寄っていく。

藤堂さん…?
一体何を…

立ち止まると、彼女は部長に向かって微笑んだ。