俺は驚いて目を丸くする。
こんな取り乱す彼女を見たのは初めてだ。

「…ごめん。先に部署帰るね」

彼女はうつむいて、お盆を持って返却口へ向かった。
俺は1人席に取り残され、立ち去る彼女の後ろ姿をじっと見つめていた。

今の俺では、立ち上がって引き止めることも出来ない。
"もっと頼ってください"だなんて言ったくせに、これじゃあ口だけだ。
結局俺は、彼女の深いところまで入っていけるほどの存在じゃなかったんだ。
彼女と少し打ち解けて、完全に調子に乗っていた。

彼女が立ち去ったあと、心にとげのように突き刺さり思い知らされる。
俺はしばらく席から動けないでいた。

とにもかくにも、彼女のプライベートに深入りしすぎた俺が悪い。
藤堂さんに謝りに行かなければ。

彼女が食堂から去った約7分後。
俺は席を立ち上がり、お盆を返却口に運ぶ。

俺は食堂を出て、早足で部署に戻った。