現実を受け入れられず、私は朝日のお葬式を抜け出した。

ふらふらと宙に浮いたように視界が安定しない。
その足で向かったのは、彼が私に指輪をくれたあの海だった。

もう朝日のいない世界なんて耐えられない。
それならもういっそのこと、同じところに…

私は海へ足を踏み入れ、自殺しようとした。
彼に会えるなら、苦しくたってなんともない。
本気でそう思った。

でもふと見た左手の薬指には、彼にもらった指輪がはまっていなかった。
確かに砂浜にいたときはつけていたはずなのに。
もしかして落とした?

指輪がなければ彼に合わせる顔がない。
絶望した私は、仕方なく砂浜へと引き返した。
彼が居なくなって絶望したばかりなのに、指輪まで無くすなんて…

砂浜に座り込んでいた私のそばを灯台の光が照らしたとき、なにかが砂浜で光り輝いた。

それは海の底へと沈んだと思っていた指輪だった。
私は指輪を手に取り、両手で握りしめて泣いた。
彼が死んでから1度も涙が出なかったのに、急に涙が溢れて止まらなかった。

きっと彼が、私にまだ死んではいけないって現実に引き戻してくれたのだろう。

そうだ。
私はずっと、彼を思って泣きながら生きていくの?
それで彼は喜ぶのだろうか。

彼がいつも笑顔だったように、私も笑顔でいよう。
彼の分まで生きなきゃいけない。

だからあの海に誓った。
私はいつも笑顔で、彼の分まで笑うんだと…。