このマンションの10階の角部屋、1001号室が彼女の部屋のようだ。

「入って」

彼女は部屋の扉を開けると、俺を部屋へと招き入れた。

「お、お邪魔します…」

部屋に入って一番に、彼女がいつもつけている薔薇の香水の匂いがした。
まるで彼女に包まれているような、そんな錯覚に陥りそうだ。

リビングへと足を踏み入れると、ものが少ないわけではないのに非常に片付いていて、彼女の性格が伺えた。

リビングは8畳ほどの間取りで本棚が1つあり、部屋の入り口側には木製のテーブルが置かれている。
窓側にはレースのカーテンが取り付けられ、茶色のソファーにテレビがある。

本棚に目をやったとき、ふとある写真が目にとまる。
そこには彼女と、その隣には男性が写っていた。

もしかして、これは…

「その人、私の彼氏」

彼女はキッチンからコップを二つ手に持ちながら現れた。

「この人が…」

彼の第一印象は、笑顔が眩しい人だと思った。
髪は少し茶色がかっていて、左目の下にはほくろがある。
誰がみてもイケメンかと言われたら正直言い難いが、この笑顔に惹かれる人は大勢いるのではないかと感じた。

「笑顔が素敵な人なの」

「本当ですね」

この部屋で撮った写真で、背景はテレビの前にあるソファーのようだ。
二人とも笑顔で、彼女も幸せそうな顔をしていた。

「一緒に住んでいないのですか?」

「住んでいたわよ」

"住んでいた"?
なぜ過去形なのだろう。

「死んじゃったから、もう一人暮らしだけどね」

「………え?」

その答えは、俺にとって思いもしないことだった。
彼女はテーブルにコップを並べ、お茶を注ぎ始める。

「もう、1年以上前の話よ…」

そして彼女は、会社の人が誰も知らない真実を語り始めた。