彼女が指輪をはずすとき

「ごめんね、送ってもらっちゃって」

俺と藤堂さんは蛍光灯で照らされた道をゆっくりと歩く。

「いいんです。夜道を女性一人が歩くのは危ないですから」

歩幅の小さい彼女は歩くのが遅くて、時々俺の歩幅に合わせるために小走りをしている。
それを見て俺は歩くペースを落として、彼女の歩幅に合わせた。

彼女の歩幅に合わせているつもりなのに、気づけばペースが速くなっている。
彼女と二人きりだからと意識しすぎているのだろうか。

「…なんだか右側を歩くなんて変な気持ち」

「え?」

「…なんでもないわ」

今夜は満月のようで蛍光灯の明かりに加え、月明かりが俺たちを照らしている。

右隣に歩く彼女は、月明かりに照らされてどこか妖艶に見える。
俺はその横顔に胸が高鳴るのを感じた。

「月、綺麗ですね」

俺はそう言って空を見上げる。
夜空には月を覆い隠すような雲はひとつたりともなかった。

「今夜は満月なのね。綺麗…」

"貴女のほうが綺麗です"
今ならそんなキザな台詞でさえ言えてしまいそうだ。

「あっ…」

突然彼女は声をあげてよろける。
俺は反射的に彼女の肩を支えた。

「大丈夫ですか藤堂さん」

「え、ええ…少しくらっとしただけよ」

肩を支えたつもりだったけれど、端から見れば今の状況は完全に彼女を抱き締めているかのように見える。

心臓の鼓動が速くなっていくのがわかる。
彼女に聞こえていないだろうか。

ふわっと香る薔薇の香りが、俺の心を掻き立てる。