彼女が指輪をはずすとき

「俺、藤堂さんのこと責任もって送ります」

「えっ?」

俺がそう言うと、水を飲むのをやめて彼女は驚いた顔をした。

「三笠くんが責任感じることないのよ?」

「いいえ、責任とかじゃなくて…藤堂さんに助けてもらったから、お礼がしたいんです」

いつも仕事で迷惑をかけて、沢山助けてもらって、今日だってそうだ。
俺なんかが藤堂さんの助けになるならそうしたい。

「藤堂、三笠がここまで言うんだから送ってもらえよ」

亘さんはそう言った。

「でも、三笠くんに悪いですし…」

「時には誰かに頼れ。自分で解決できないことだってある。何でも一人でやろうとするな」

亘さんがそう言うと、彼女はうつむいてしばらく間をあけてから頷いた。

亘さんはよく人を見ていると思う。
俺も飯沼も亘さんには怖い印象を持っていたが、いまこうして彼の言葉を聞いてみると分かりにくいが相手を思って言っているんだと感じた。

飯沼に聞かせてやりたかったな。
お前いい上司に当たったなって。

「じゃあ三笠、よろしく頼む。おつかれ」

「はい。お疲れ様です」

亘さんはここをあとにし、向こうでたむろしている社員のほうへ向かう。

「藤堂さん、行きましょうか」

俺がそう言うと、彼女はこくりと頷いた。