そう思って黙っていると、紅はふと目を細めて、トマトをそっと棚に戻した。
「……あっちの高校に行っても、紘之さんが一緒に住んでくれたらいいのに」
思わず口から出た、という風だった。
俺が驚いて目を見開くと、やがて紅もハッとしたように口に手を当てた。
「あ、えっと、今のは、その……」
「…………」
「ご、ごめんなさい。あくまでそうなったらいいのにって話ですから、気にしないで……」
「ダメじゃないですか、お嬢」
遮るように言った俺の顔は、不器用に笑っていた。
紅が驚いた顔をする。ズボンのポケットから出そうになった手を抑えて、俺は笑った。
「いくら歳上でも、男は狼なんですよ。冗談でもふたりきりで住んだら、お嬢なんかすぐ食われますよ」
言外に、食っちまうぞと忠告する。
さすがに言っている意味がわかったのか、紅は顔を赤くした。



