「それならいいだろ」
「あ、ああ……紘之が一緒なら、安心だけど」
「決まり。行きましょーか、お嬢」
普段からお嬢の相手係をしている俺がこんなことを言っても、特に誰も不思議には思わない。
戸惑っているのは、紅だけだ。
「ひ、紘之さん。私ひとりでも大丈夫ですよ」
彼女の手を引いて長い廊下を歩いていると、やがて紅が焦った様子で立ち止まった。
「なんすか。そんなにひとりがいいんですか」
「そういうわけじゃないけど……その、ちょうどコンビニにも行きたかったから、私が買いにいくって言ったの。だから紘之さんについてきてもらうのは悪いです」
「悪くないですよ。これも仕事です。だいたい、男がこんなにいて、こんな時間に女の子をひとりで出歩かせるわけないでしょ」
そう言うと、紅は困った顔をして黙った。
下を向いて、小さな声で「でも」と言う。



