『芹澤』 そう書かれたプレートのある家の前に立つ。 ここ、だよね。 数回しか行ったことがないけれど、なぜか確信があるのは、『芹澤』という名字が珍しいからじゃない。 ピンポーン。 緊張で震えた指で、何度かのためらいを終えた後、ようやく音を鳴らすことに成功した。 「はーい」 中から声が聞こえる。 扉越しだし、少し濁って聞こえるけれど、この声が希子のものだって、すぐに分かる。 「どちら様で………っ!」 目が合った瞬間、短い驚きと少々の嫌悪の思いが混ざった声を出した。