素直の向こうがわ



「どう? 上手くいってるか?」


戻って来た河野の声にハッとして、作業に手を戻す。


「うん! もう少しで出来るよ。な?」


本当に嬉しそうに渉君が私を見上げて来る。


「うん。あと少し。ハンバーグ焼くだけだよ」


ハンバーグの形を作りながらそう答えた。


「俺も、なんかやることある?」


そう言い終える頃には私の隣に河野が来ていた。すぐ隣に立たれて、また心臓が騒ぎ出す。


「い、いや、いい。大丈夫。渉君と二人で出来るし」

「そうそう。兄ちゃん、他のことやってなよ」


ナイス、渉君。
こんなところで並んで料理でもしようものなら、緊張で絶対に失敗する。不味い料理を食べさせるわけには行かない。絶対。


「他の家事はもう全部やって来た。だから、大丈夫だ」


大丈夫じゃない。大丈夫じゃない。


私服姿の河野の威力は恐ろしい。
近づかれただけで、近くで声が聞こえるだけでどんどん挙動不審になる。


「ただ待ってればいいから!」


私は河野の顔を見上げることも出来ずにそう言って、河野をキッチンから追いやった。

そんな私に少しだけ不服そうな表情を見せたけれど、「分かった」と言ってダイニングテーブルのところへと行きそこを片付け始めた。