素直の向こうがわ



ひき肉も玉ねぎも、ジャガイモも人参も、必要になりそうなものは皆揃っていた。

もしかしたら、渉君の好物メニューだから材料が準備してあるのかもしれない。

会ったことのない真ん中の弟君に感心する。


「じゃあ、ハンバーグとポテトサラダ作るね」

「おう。オレも手伝うか?」

「出来る?」


小学3年生って料理出来るものなんだっけ。


少し不安になって聞いてみた。


「徹兄ちゃんよりは出来る!」


どれだけあいつは出来ないんだ。


完璧に見える河野の弱点を知れたみたいで少し嬉しい。


「じゃあ、渉君はジャガイモの皮剥いてみようか」


兄妹のいない私にはこんなやり取りが新鮮で、一緒に並んで料理を作ることが思いのほか楽しかった。
そして、ほんの少し、母親とこうして並んで料理した昔のことを思い出してしまった。


「渉、邪魔しちゃだめだぞ」


いつの間にか私服に着替えてきた河野がこちらへとやって来た。
VネックのTシャツにジーンズ、初めて見る私服姿の河野が別人に見える。


「邪魔じゃないよ。渉君、上手だよ」

「そうだぞ。兄ちゃんより上手だもん、オレ」

「ねー」


いつの間にか息ぴったりになっている私たちに驚きつつも、河野は渉君を優しく見つめていた。


意外に私、子供うけはいいかも?


そんなことを思って心の中で喜んでいた。


「じゃあ、渉、任せたぞ」


そう言うと河野はまたどこかへと行ってしまった。