素直の向こうがわ



少し緊張しながらリビングダイニングへと入る。
その奥にキッチンがあった。


「姉ちゃん、冷蔵庫こっちだよ」


最初は警戒しているような目を向けていた渉君も、私の外見にも慣れたのか率先して案内してくれた。


河野の家なんていうかなりのプライベート空間に、どうしても興味が湧いてしまい怪しいほどに見回してしまう。

部屋の中は、片付いてはいるんだけれどどこか粗雑な感じがした。

新聞紙はきちんとまとめられてはいても、床に剥き出しで置いてあったり。
畳んではあるんだけれど洗濯物がソファの上に置いてあったり……。


そう言えば、さっきは焦っていて意識が向かなかったけれど、お母さんはどうしたのだろう。

不思議に思いながらも渉君の後に続いてキッチンに入った。


「ここに入っているもの何でも使っていいから。任せていい?」


冷蔵庫を覗きながら河野が言った。


「う、うん。じゃあ勝手に使わせてもらう」


私は肩から鞄をおろし、キッチン脇に置いた。


「姉ちゃん、本当に料理上手なの?」


あからさまに疑いの目で見られている。
それも無理はない。私の見た目が見た目だし。


「多分、下手ではないと思うよ。渉君は何が好き?」


一応リクエストを聞いておこうと思った。


「オレ、ハンバーグとポテトサラダ!」


元気のいい声が返って来た。


「じゃあ、材料揃ってるか見てみようか」


そんな私と渉君の様子を見届けてから、河野がリビングから出て行った。