前を歩く河野の背中をじっと見つめる。
夏の空はいつまでたっても明るくて時間の感覚を狂わせる。
確実に一日の終わりへと向かっているはずなのに、太陽の熱がおさまる気配はなく背中にじっとりと汗が流れた。
それなのに前を歩く男と来たら、その周りだけそよ風でも吹いているのかと思うくらい時折見える横顔は涼しい顔してる。
『借りを返すことにしてやる』なんて言って、本当は河野の優しさだって分かってる。
あんな唐突なことを口走って一人焦った私に恥をかかさないためだ。
こんな突拍子もない申し出、無下に断られたって仕方がないのに。
校門を出ると、河野は駅とは反対の方へと進んで行った。
自転車も持っていないことを考えると、家は学校から近いのだろう。
「それで、追試は大丈夫だったの?」
突然口を開いた河野がその歩みを遅くしてこちらを振り返った。
私はじっと背中を見ていたのを気付かれたくなくて、ぱっと視線をそらす。
でも、それがあまりにあからさまになってしまったような気がして、すぐに視線を戻した。
「う、うん。なんとか」
あの日の気まずい思いが蘇って来る。
「そうか」
河野はそう言ったまま立ち止まっている。
慌てて、河野の隣へと走る。
多分、後ろを歩く私に気を使ったんだと思った。



