素直の向こうがわ




「あ……。あの、ご、ごめん、急に変なこと。立ち聞きしようと思ったわけじゃなくて聞こえて来て。それで、夕飯いるのかなとか思って。ほら、私、り、料理だけは得意だし。いや、そんなのあんた知らないか。って、私何言っちゃってんだろうね。あはは……」


誤魔化して取り繕おうと捲し立てれば立てるほど、どつぼにはまってる。
焦りのあまりバカみたいに笑って無駄に身振り手振り……。

完全にもう私はどうかしている。

自分のこの口を心の中で罵りまくった。

どうしてあんなこと。馬鹿だ。私は、本当の大馬鹿者だ。

ひとり滑稽なほどあたふたしまくっている私を、ただ無言のまま河野は見ていた。

そして、河野はしばらくしてその固まったままこちらに振り向いていた顔を元に戻した。


「……なんか、美味しいもの作ってくれるらしいから、これから帰る」


携帯電話に向かって、河野がそう言っていた。