「兄ちゃん、これからすぐ帰るから。それまで待ってられるな?」
――ん?
「もう泣くな」
――え? 兄ちゃん?
確かに聞いたこともないような甘い声だけれど、もしかして電話の相手は弟? 妹?
「たかしみたいに上手には作れないから、ちゃんと夕飯買って帰る」
夕飯……? 夕飯に困ってる?
「わ、私、作ってもいいけどっ!」
この口が勝手にその背中に叫んでいた。
どうしてかなんて自分でも分からない。
気付けばそう叫んでいた。
気付いた時には、河野がこちらを振り返ってしまっていた。
振り向いたその顔は、まさに驚きのあまり思考停止したかのように固まっている。
「え?」
「え?」
共に重なるお互いの声。