素直の向こうがわ




……寝てる?


耳を澄ますと、微かに息をしている音がする。
間違いなく寝ていた。

少しだけ俯いているせいか、眼鏡がちょっとだけずり落ちている。
だから、その閉じた目が露わになっていた。

瞼の横にほくろがあった。そして、まつ毛が結構長い。

寝ているのをいいことに、大胆にじっと見続けた。こんなにまじまじと河野の顔を見たことは無い。


河野の寝顔なんて、かなり貴重かも……。


理知的な真っ直ぐに伸びた眉。
きっとこれまで間違ったことなんて一切せずに生きて来たんだろう。
その眉みたいに真っ直ぐに。


こんな風にクラスの派手な女子の面倒までみちゃって。


冷たい目をするくせに、結構面倒見がいいこの男。

あまりに気持ちよさそうに寝ていたから、もう少しプリントを自分で頑張ってみることにした。


少しずつ教室に夕日が射し込んできて、完全なオレンジ色になる。
河野の顔にもそのオレンジ色が忍び寄って来て、少しその頬に陰をさした。


「……あ。っと、あれ?」


河野が頭を揺らし、あたりを見回した。