「ほら、もう予鈴鳴るから帰りなよ。子供じゃあるまいし」
薫に手で追い払われて、仕方なくとぼとぼと自分の席に戻る。
そして、悔しいけれど私の方から隣の席を盗み見た。
相変わらずの横顔。
考えてみれば、この席になってこの男の正面の顔を見たことがない気がする。いつも横顔。
きちんと切りそろえられた黒髪に、銀縁の眼鏡。
さすがに第一ボタンまではとめていないみたいだけど、上の方で結ばれたネクタイ。絶対に手を入れていないであろう眉に、神経質そうな切れ長の鋭い目……。
真面目クンの見本、みたいな姿かたちに自分との人種の違いを感じる。
思わず自分の姿を見返してみた。
胸まである、ミルクティーのような色をした巻き髪。
第二ボタンまで外したシャツに、垂れるようにかかっている指定のものではない大きめのリボン。
太ももの半分以上が露わになっている短いスカート。
そして、このまま夜のお仕事にも出勤できそうなばっちりメイク。
こんなにも違い過ぎる私たちが並んで座っているのを教壇から見たら、どんな感じなんだろう。
まるで、ギャグだ――。
想像して、思わず吹き出しそうになった。
「授業始めるぞー」
ガラガラと勢いよく扉が開き、担任が教室に入って来た。



