素直の向こうがわ



「で、この問題だけど。これは、この構文を使えってこと」


河野は淡々と問題の解説を始めた。
プリントの余白に英語の構文をすらすらと書いている。
その字は河野をそのまま表しているような角ばった文字だった。


「ここに俺が書いた構文で、この3つの問題は全部解ける。単語だけ変えれば出来るという、全く頭を使わずに出来る問題だから。ほら、やってみろ」


またも放り込まれた毒舌。
でも、今は文句を言うだけの強さはない。

河野の書いた構文に問題に合う単語を当てはめていく。
そして、ペンが止まる。


あれ、「論理的に」ってどういう単語だったっけ……。


スペルが分からない。
いいや、次の問題を先に解こう。


あれ、これも分からない。じゃあ、次……。

次……。


プリントを解き進めるはずが、結局一問しか出来なかった。
これでも自分なりに懸命に考えた。
でも、結局これ以上解答欄を埋めることが出来なかった。

ここは恥を忍んで河野に聞くしかない。
どんな毒舌も受け入れる。そう身構えて河野の名を呼んだ。


「河野……」


プリントから目を上げて河野を見ると、机に頬杖をついたまま目を閉じていた。


「河野?」


最初は目を閉じているだけかと思った。

でも、もう一度呼びかけてもピクリともしなかった。