素直の向こうがわ




「英語か……。で、最初から分かんないの?」


私の向かいに座り、私のシャーペンを奪い取ってプリントに視線を落としている河野。
俯いているその顔をついじっと見てしまう。


どうして、こんなことしてくれるの――?


さらさらの黒髪が俯くと同時に揺れて、触れたくなる。
さっきからうるさいほどの私の鼓動は落ち着く気配がない。


「……アンタ、この2年何やってたの?」


久しぶりに聞く毒舌に、私は我に返った。


「な、何もやってないわよ!」

「そんなこと偉そうに言うな」


即座に言い返される。
また、河野に溜息をつかれた。

その時だった。
半分ほど開いている窓から、気持ちのいい風が吹いて来た。
その風に、私も河野も気が取られていると、机の上の英語以外の3枚のプリントがその風に舞った。

3枚が3枚とも不規則に飛び、そしてバラバラに床に落ちていく。
慌ててプリントを拾おうと床にしゃがみ込む。

私が席から離れたせいで、唯一机の上にとどまっていた英語のプリントまでが宙を舞う。

床に散らばる3枚のプリントを拾う私の手の上に英語のプリントが落ちて来た。


そして――。

それと一緒に河野の手まで落ちて来た。