素直の向こうがわ




「松本、このままじゃ卒業も危うくなるぞ」


さすがにその言葉には恐れおののいた。留年だけは勘弁だ。


「とりあえず、補習としてプリント渡すから自分で今やって来い。そして今日中に各教科の先生に提出するんだぞ。追試は明後日。分かったな」


担任が一方的に手渡して来たプリントを無言で受け取る。

さすがに、私一人のために補習授業をやる気はないらしい。


昼食には付き合ってくれた薫や真里菜と別れて、教室に戻った。

試験さえ返却されたらみんなもう学校に用はない。
教室はもぬけの殻だった。

ひとけのない教室はいつもより広く感じる。
夏の日差しが射し込んでくるから、空っぽの教室は陽の光で一杯になっている。

嫌ってほど燦々とした教室内が、余計に私を惨めにさせた。

私の周りはこんなにも明るい。


いつもの自分の席に座る。
その隣には、本人不在の河野の席がある。

いないのをいいことについじっと見てしまった。

そこに座っている横顔を思い出す。

銀縁眼鏡の奥にある一見冷たい目。

でも、それは、本当は冷たいだけじゃないんじゃないかって思い始めてる。