素直の向こうがわ



航が私のところに来た日から、河野の近くにいるのがまた辛くなった。

それでも隣の席だから授業中はしょうがない。

だから、その時だけはなんとか耐えて、休み時間はまた以前のように薫や真里菜の席に逃げていた。


「最近自分の席が好きになったのかと思ったら、またこっちに入り浸るようになってどうしたの?」


私の席の対角にある薫の席でお弁当をつついているとき、薫が私の顔をのぞき込んできた。


「別に……。特に理由ない」


無意識のうちに溜息をつく。


ちょっとこのお弁当、量が多いよ。


自分で作っておいて心の中で悪態をついた。
最近、あんまり食欲がない。
それはきっと、日に日に増す気温のせい。


「嘘だ。理由は……」


真里菜が私に顔を近づけて来る。


「ずばり、河野でしょ」

「なっ」


ぼけっと握っていた箸を危うく落としそうになった。


「なんで河野が出て来るのよ。やめてよ。関係あるわけないじゃん」


私は俯いて次々おかずを口に運ぶ。
もう味なんてよくわからない。


「え? なんで、河野?」


不思議そうに薫が真里菜と私の顔を交互に見ていた。