耳に届く予鈴が、私に悟らせる。
そっか。そう言えば予鈴なんてまだ鳴っていなかった。
予鈴が鳴る前に教師が来るわけない。
少し考えれば、河野が出まかせを言ったなんてことすぐに分かる。
でも、どうして――?
「別に……。狭い通路に邪魔だっただけだ」
私の心の声が聞こえたのかと思って、ビクッとした。
そう呟いた河野の顔は、やっぱりこちらに向くことはない。
「そ、そっか。そうだよね。邪魔だったよね。あいつ……」
私は表情を硬くしたまま声だけで笑った。
「フミ、じゃあ、私席に戻るねー」
真里菜が意味深な笑みを私に向けてひらひらと手を振り、自分の席へと戻って行った。そのすぐ後に薫も廊下から戻って来て、机の上のお弁当箱を手にした。
「ごめんねー」
気まずそうに薫が言うものだから、「いいのいいの。彼と上手く行っててよかった」と今度は本当の笑顔を向けた。
「じゃあ、また放課後」
席に戻って行く薫の背中を見送る。
すると、ポケットの中のスマホが振動した。
(さっきの河野、ちょっとカッコよくなかった? あれって完全にフミを助けたんだよね。これまた遠足マジック?)
LINEの画面に真里菜から送られて来たメッセージが表示される。



