素直の向こうがわ



「文ちゃん、いいでしょ?」

「もうあんたとは遊ばないってば」


高1の時に4か月くらい付き合って別れた。
別れたと言ってもなんとなく会わなくなっての自然消滅。

それなのに、高2の終わり、一度だけ航としてしまったことがある。
別に好きだったからとか未練があったからというわけではない。
その時の流れで、その場の雰囲気でなんとなく。
何か嫌なことがあって、投げやりな気持ちだった。

自分の身体なんて、どうでもよかった。そもそも私は、自分自身になんの価値も見いだせていないから。

ろくでもなくてちゃらんぽらんの空っぽの私。

でも、さすがにその時は私も自己嫌悪に陥って。
それから航とは話していない。


「そんなこと言わずにさ。俺も最近ストレス溜まってんだよね。文子もでしょ?」


露骨に嫌な顔をして見せてるのにまったく怯む気配がない。
どうせ、受験勉強のストレスが溜まってヤりたくなって、ヤらせてくれそうな女のところに来たってだけのことでしょ。

そんな航にうんざりしていると、河野が席に戻って来たのに気付く。

その横顔が視界に入った時、急に心がざわついて落ち着かなくなる。