「そのままの意味だけど。名前の方が、アンタで勘弁してくれって思ってんじゃないの?」
「ちょっと――」
小馬鹿にしたような目で私を見たと思ったら、席を立って教室を出て行ってしまった。
反論しようとした私の言葉が宙に浮く。
「……河野ってさ、最近なんだかんだでフミに喋り掛けて来るよね。これも、遠足マジック?」
私と河野のやり取りを見ていた真里菜が、頬杖をついてニヤニヤしている。
「あんなの、喋りかけてるんじゃなくて、ただ毒吐いてるだけじゃないのよ」
私は一人興奮していたのが恥ずかしくなって俯いて肉巻きを口に運んだ。
「だから、前は絶対喋らなかったじゃん。よっぽどの必要性がない限り」
それは、その通りだった。
あの遠足の日以来、河野は私の会話中に不意に毒を吐いて来ることがある。無表情なのは変わりなく、毒を吐く以外の言葉はないところが悲しいところだけど。
でも明らかに、こうやって会話をしていることになる。
そしてもっと不思議なことに、憎まれ口を叩かれているのにどこか楽しんでいる自分がいる。
「薫」
教室の扉から薫を呼ぶ声がした。
そちらに振り向くと、薫の彼が立っていた。



