素直の向こうがわ




「え……」


頬杖をついて真っ直ぐに前を見ている、眼鏡男。こちらをちらりとも見ない。


「なんで、あんたが……」


思わずそう声に出てしまっても、その横顔が動くことはなかった。


どうして、よりにもよってこの男の隣にならなきゃなんないの?


どうしてどうしてと心の中で繰り返す。

こちらを心配そうに、いや、面白そうに見ている薫と真里菜の顔が目に入って、必死に目で口パクで訴えた。


(代わってよ)
(イ、ヤ、ダ)


真里菜の大げさな唇の動きがそう言っている。


仕方なく席に着く。
もう一度ちらりと隣を見てもまったくその視線が動くことはない。


もう、サイアクだ――。


次の席替えまでの辛抱だ。


そんなことを思ってみても何の慰めにもならなくて。
もうヤケになって机に突っ伏した。




窓の外を見れば、私の涙の代わりなのか雨が降り続いている。

もうすぐ梅雨に入ろうかという高3の6月。



私は、何も考えず、ただテキトーにその日を生きていた――。