お昼休みになって、お弁当を広げる。
いつも、私と真里菜と薫の3人で食べている。
さっき、薫に指摘されたから気付いたけれど、遠足が終わってからというもの私の席を囲むようにお昼を食べるようになった。
私の方から、席を動かなくなったということの何よりの証拠だ。
「それにしても、フミのお弁当っていつもちゃんとしてるよね。これ、自分で作ってるんでしょ? 意外だよねー」
色とりどりの私のお弁当の中身を見て真里菜が声を上げる。
他のことはどうでもいいのに、食事だけはちゃんと作っているのだ。
それは、もう自分にとっての意地なのかもしれない。
母親の作る料理はどれも美味しかった。小さい頃に一緒に料理をしながら教えてもらったのと同じものを、一人になっても作り続けている。
「でも、ほら、『文子』なんて超古風な名前に合ってるじゃん。料理が上手そうな名前だよ」
薫が真面目な顔でそんなことを言って来るから、私は気恥ずかしくなって大きな声で反論した。
「勘弁してよね。『ふみこ』なんてババくさい名前、ほんとにイヤなんだけどー」
自分の名前が本当に嫌いだった。
いつの時代のつもりなのか。こんな名前を付けた親が心底許せない。
私だって、もっとお洒落でセンスのある名前がほしかった。
「――むしろ、名前の方が気の毒だろ」
突然横から飛び込んで来た低い声に、思わずそちらに顔を向けた。
でも、その張本人は涼しい顔でお弁当箱の蓋を閉じている。
「な、なによ。突然言葉挟んで来ないでよね。それに、名前の方が気の毒ってどういう意味?」
私は、かっとなって睨みつけた。



