素直の向こうがわ



ドア付近に立つ眼鏡男に、少しだけ距離を置いて立つ。

どうしても眼鏡男の濡れた制服のシャツが気になる。でも、だからと言って何も言えなかったし何も出来なかった。

自分だけ雨を拭うことも出来なくて、手にしていたタオルは宙ぶらりんになる。
もう片方の手でリュックを抱えて、両手がふさがってしまい手すりを掴むことが出来なかった。

なんとか両足で踏ん張るように立つ。
眼鏡男は扉を背に立っていた。

身体はこちらを向いていたけれど、顔だけを横にして扉の窓から外の景色を見ているようだった。

その横顔が、いつも教室で見ているものとは違って見える。

こんな風に二人で学校以外のところで一緒にいるからなのだろうか。

眼鏡越しではない、そのままの目を見ることが出来ることに気付く。
正面からではないから、つい見入ってしまった。


キィィィィ――。


次の瞬間、急に身体を横に持っていかれた。