素直の向こうがわ



「なんだよ」


私が黙ったままつい見つめてしまったから、眼鏡男の表情は既に怪訝そうなものに変わってしまっている。


「べ、別に。私はいつもまともなこと言ってます」


私は私で、慌てて視線を下に戻す。


「よく言う。『無表情、しかめっ面眼鏡』とか言ってなかったか。だいたい、無表情なのかしかめっ面なのかどっちかにしろよ」

「……っ」


しっかり覚えてるの?
あの時は何にも言い返して来なかったくせに。


何も反論出来ないことが悔しくてつい睨むと、やっぱりもう冷めた目なんてしていなかった。


「なに? 本当のことだろ?」


私、眼鏡男と普通に喋ってる……。それに、アイツ、本当に僅かだけど表情を緩めてる。


そんなの、反則だ。

何がどうしてそうなるのか分からないけど、無性に腹が立った。
そして、なんだか楽しかった。