ゆっくりと眼鏡男がこちらを向く。
無言で凝視されて、自分の言った言葉を頭の中で繰り返した。
そして、それが今までの私ではあり得ない発言だと気付く。
気付いたところで後の祭りで、撤回するのもおかしいから仕方なく黙ったままでいた。
変な沈黙が続いていたたまれなくなって、ホームの点字ブロックをひたすら見つめながら「早く電車来い」とそれだけを考える。
「……アンタ、まともなことも言えんだな」
ぼそりと呟かれた言葉に、思わず眼鏡男の顔を見ると――。そこには、初めて見る眼鏡男の笑顔があった。
いや、普通の人なら『笑顔』とまでは行かないだろう。
でも、アイツの場合いつもがあまりに無表情過ぎるから、少し表情を緩めただけでそれはもう笑顔に値してしまう。
眼鏡の奥の目が少しだけ細められていて、口角が僅かに上がっていた。



