素直の向こうがわ



隣を歩く眼鏡男に、さっきよりもっと緊張してる。
それなのに、ちらりと横目で眼鏡男の横顔を盗み見ても、悔しいくらいにその表情はさっきと同じものだった。


私一人、なに焦ってんのよ。


だいたい、柄にもないことをアイツが言うから悪いんだ。

『大丈夫か?』って何? あんたのキャラじゃないでしょうが。

いつも通り冷めきった声で、『いい年して雷が怖いなんて、バカなの? ガキなの?』とか言えばいいじゃない。


頭の中でぐるぐると必死で悪態をつく。


そんなことをしていたら、いつの間にか路面電車の駅に着いていた。

ホームで電車を待っている時に、眼鏡男が携帯電話を取り出し誰かに電話を掛け始めた。


「ああ、俺。松本いたからこれからそっち向かう。先生には、松本が途中で体調崩したから少し休ませていて遅くなったと言っておいてくれ。その報告のために自分たちだけは先に集合場所に来たと言うのを忘れるなよ。女子2人にも伝えといて。じゃあ」


テキパキと指示して、携帯電話を鞄にしまっている。
その姿を無言のまま眺めていた。


「なんか……、いろいろ迷惑かけてごめん」


そして私は、ついそう呟いてしまった。