そうしたら、何故か眼鏡男の目線が同じ位置にあって。
その視線と目が合う。
しゃがんでしまったせいで身体中に浴びていた雨のしぶきが、少し和らぐ。
眼鏡男が、同じようにしゃがんで私のすぐ頭上に傘をさしてくれていた。
「……」
これまでで一番間近で眼鏡の奥の瞳を見た。
切れ長だから一見冷たく見えるけど、今、私の前にあるその目から冷たさは感じられない。
思わず見つめてしまって、言葉が出て来ない。
「立てないのか?」
そんな私を不思議そうに見ている。
「た、立てるよ」
慌ててその視線を外し、リュックを抱きしめながら勢いよく立ち上がった。
「いてっ」
そのせいで、傘に頭をぶつけてしまった。
「急に立ち上がんなよ」
「急じゃない」
ぶつけた頭がじんじんする。
心の動揺を頭に感じる痛みで誤魔化す。
「痛い、痛い」
意味もなく声に出して、大袈裟に頭をなでる。
馬鹿みたいに焦ってる自分が情けなくて仕方がないけれど、何か言っていないと、何かしていないと変な気分になりそうで怖かった。
目の前の眼鏡男に何故か心を揺るがされている自分を、直視したくなかった。



