一つの傘で歩きながらも一切会話をしない私たちには、降り続く激しい雨音と横を走る車の音、そして時折通る路面電車の音だけが聞こえて来る。
ずっと黙っているのも余計に気詰りになって、仕方なく私の方から声を掛けることにした。
「あんた、なんでこんなとこにいたのよ。他の男子はどうしたの?」
そうだ。なんで、この男があんなところに現れたのかが不思議だった。
その疑問もさっきのやり取りですっかり忘れ去っていた。
「はあ? 誰のせいで俺がこんなところに来る羽目になってると思ってるんだ」
2人で歩き出してから、初めて眼鏡男がこちらを見た。



