男性用とはいえ、眼鏡男の持っている折りたたみ傘は一人で雨をしのぐのにやっとの大きさだ。
それに私まで入ってしまえば、間違いなく眼鏡男の左半身はずぶ濡れになる。
そんなことまでさせたら申し訳ない――。
そこまで考えて思い直す。
そうじゃない。そうじゃなくて……。
「申し訳ない」じゃなくて、なんとなく悔しいだけ。
わがままを言って別行動にさせ、好き放題やった結末がこのありさま。
その上眼鏡男の服まで濡らすことになったらこの先ずっとこの男に頭が上がらない気がした。
今、私の心にあるこのなんとも言えない感情は、悔しさから来るものだと結論づけてしまいたかった。
「人のこと心配してる場合なのか? それ以上ずぶ濡れになってもっと酷い状態になりたいわけ?」
苛立ったようにそう言うと、眼鏡男が今度は私の腕を掴んで傘の中に引っ張り入れた。
その時私の腕に触れた眼鏡男の手のひらに、訳も分からないまま心臓が跳ねる。
「それに、そんな心配してくれるぐらいなら時間のことを気にしてくれ。アンタらのせいで怒られるのはごめんなんだ」
すぐに離れて行った眼鏡男の手は、傘からはみだしもう雨に打たれていた。
眼鏡男の半袖のシャツからのぞく腕を伝って流れていく雨水に、心の奥底がぎゅっとなる。
でも、それがなんなのかは分からない。



