素直の向こうがわ



「ほら、行くぞ」


こちらは見ずに傘だけを差し掛けて来る。

でも、どうしてもその傘に入ることにためらいがあった。

リュックを前で抱きしめたまま、電話ボックスの中で立ちすくむ。


「おい」


歩き出そうとしない私の方に、眼鏡男が恐る恐るこちらに振り返る。
眼鏡の奥のその目が、怒っているようにピクリと動いた。


「俺と同じ傘には入りたくないのかもしれねーけど、おまえの友達と合流するまで我慢しろ――」

「そうじゃなくて、あんたが濡れちゃうかと思ったの!」


リュックを強く握り締めながら叫んでいた。
私の方に傘を差し掛けていた眼鏡男の左肩は、既に制服のシャツの下に着ているTシャツまでも濡らし肌が透けて見えている状態だった。