素直の向こうがわ



「な、なに?」

「前で持ってろ」

「は? なんでよ」

「……濡れてるから、前を隠せって言ってんだよ」


そこまで言わせてやっと、その意味に気が付いた。

激しい雨の中傘をささずに走って来た私の白いシャツは、水をかぶったような状態だった。シャツ越しに透けて見えてしまうことをすっかり忘れていたのだ。


「ぎゃっ。み、見ないでよ」


見たくないから隠せと言っている相手に対して、またもこんな言い方をしてしまう。

髪は濡れて巻いた形跡なんてほとんど残っていないし、顔のメイクもほとんどはがれているに違いない。

いつもの「松本文子」とは程遠い姿。

素の自分がさらけ出されているようで急に恥ずかしくなる。