しゃがみ込んだままの私にこれ見よがしの深い溜息をついて、眼鏡男が私のリュックを引っ張って無理やりに立たせた。
「ちょっ、何すんのよ」
「だから、時間ねーって言ったの聞こえなかったのか」
立ち上がらせられた瞬間、濡れそぼったシャツに冷たさを感じる。
そのせいで、くしゃみまで出てしまった。
その時、私から思いっきり顔を逸らす眼鏡男に気付く。
そんな慌てた姿、初めて見た。
毎日目に入って来る眼鏡男と言えば、いつもどこか余裕そうで表情一つ動かさない男だ。
一体どうしたのかとうかがうように見上げると、何を思ったのか、私から顔を逸らしたままの眼鏡男が勝手にリュックをひったくり胸のあたりに押し付けて来た。



