ドンっ――。
一際大きい音が鼓膜を轟かせる。
「ぎゃっ」
自分の身体が震えだす。それは雨に濡れたからなのか、雷が怖いからなのかもはや分からない。
白いシャツもスカートも、長い髪も、もうびしょぬれでぐちゃぐちゃだ。
電話も出来ない。
もう、集合時間も過ぎている。
ぎゅっと目を瞑ると、あの冷たい視線を思い出した。
別々に回ることにしたのに、集合場所に遅刻なんかして何を言われるか分からない。
それに、先生にもばれて迷惑をかける。
考えただけで頭が痛い。
真里菜の電話番号も薫の電話番号も記憶していない。すぐ目の前にある公衆電話が恨めしい。
迫りくる雷と肌にまとわりつく冷たいシャツ、そして水滴をたらしまくっている髪が悲惨な状況をさらに惨めなものにした。
ド、ドドド――。
「きゃあっ」
更に空に轟く大きな音に、本気で叫んでしまった。
父親は医者で家になんかほとんどいたためしはない。その代り、私には優しいお母さんがいた。でも、何故か、雨の日になると私を一人残して出掛けて行った。
『文ちゃん、ごめんね。すぐに帰って来るから、それまでもう一人で待てるよね』
そんなときに限って雷は鳴った。
静まり返った広い家に響き渡る轟音に、どこに隠れてもその音から逃れられなくて心臓が締め付けられるほどの恐怖を感じた。
お母さん、早く帰って来てよ――。
部屋の片隅で、そう何度も叫んでいた。
その時の恐ろしさは、今でも鮮明に記憶している。
ガタガタと震えだす身体を必死で抱きしめた。
狭い電話ボックスの中で身体をこれ以上出来ないというほど丸めていた。
「アンタ、何やってんの?」
その時頭上から、電話ボックスの扉が開く音と、聞き覚えのある冷たい声が降って来た。



