素直の向こうがわ




肩に背負っていたピンク色のリュックを慌てて掻き回す。


「ない……」


入れたと思っていた折りたたみ傘がない。

次第に強まる雨足に気ばかりが焦る。

制服の白いシャツに容赦なく雨が注いで、中に着ているキャミソールやら何やらが透けて見えそうで、追い詰められていく。


とにかく、雨から逃れられるところに行かないと。


そう思って周りを見渡しても、ちょうど道路と砂浜しかない場所に自分が立っていた。

少し先の方を見てみると、その砂浜用のものなのか駐車場が見える。そしてそこに、最近滅多に見ることのない電話ボックスを見つけた。

もう、あそこしかない。ほとんどなんのたしにもなっていないけれど、頭に手をやり全速力で電話ボックスを目指した。

必死に走る私の背後で、嫌な音がし始める。


――雷。


私はさらに走る速度を上げた。靴下なんてしぶきで濡れまくっていたけれど、そんなことに気を遣う余裕なんてまるでなかった。

叩きつけるような雨が、肩を、頭を濡らして行く。

ひったくるように電話ボックスの扉を開け、その中に飛び込んだ。
そして、飛び込んだと同時に、大きな何かが砕けるような音がした。


「きゃっ」


咄嗟にうずくまり耳を両手でふさぐ。
本当に、雷だけは苦手だ。
子供の頃からずっと。

雷の音を聞くだけで、その恐怖と寂しさが一気に蘇って来る。