素直の向こうがわ




分厚い雲に覆われた灰色の空のせいで、打ち寄せる波も広がる海も全部どんよりとした色にしている。

肌にまとわりつく空気もさっきより重苦しくなったような気がした。


平行して走る路面電車が私を追い越して行く。


真里菜も薫も、みんなちゃんと恋してるんだ――。


歩きながら、そんなことを思った。

それと同時に高1の時の自分を思い出して、ほんのわずか苦い気分になる。


『恋』っていう、『彼』っていう、外見が必要だった。
何もかも、どうでもよかった。

高校に入ってすぐに、派手な格好をした私に相応の派手な男が寄って来た。
それだけのこと。
一緒にいて嫌じゃなければそれで良かった。
『寂しい』とか『憎い』とか、そんな感情をひと時でも忘れさせてくれればいい。ただ何も考えずにいられた関係は楽だった。


あ……。


海沿いの道を歩き始めてしばらく経った頃だった。
そろそろ駅に向かわないと、と思い始めた時、肌に一滴、二滴と水滴が落ちて来たのを感じた。
最初はぽつぽつと感じていたそれが、あっという間に筋になって自分に降り注いでくる。


「ぎゃ、雨?」


意味もなく空を仰ぎ見ると、自分めがけて雨が降って来た。