「でも……」
「ごめん。ちょっと薫借りていいかな」
彼の目が真っ直ぐに私に注がれた。
それはきっと彼にとって切実なもの。
「も、もちろん。行ってきなって。私、ちょっと行ってみたいところもあるし、そっち寄ってそのまま集合場所に戻るから。薫もそのまま直接集合場所に来てよ」
これ以上私がこの場にいたら、薫はきっと私のことを優先させてしまう。
薫はそういう子だ。だから、私は早々にここを去ることにした。
「ちょっと、フミ!」
「じゃあね、後でねー」
彼に腕を掴まれたままの薫が、心配そうに私を見ている。
薫に気を使わせたくなくて、とびっきりの笑顔で手を振った。
『人の恋路は邪魔するもんじゃなし』
まさにその通りだ。
まさか一人になるとは思わなかったけれど、まあいい。
少し寂しいと思ってしまいそうになるけれど、「一人で見る海もオツだ」と思うことにした。
島から橋を渡り、海岸沿いの道へと戻る。
集合時間までまだ少し余裕があったので、その海岸沿いの道を歩いてみることにした。
目の前にはせっかくの海がある。
海からの湿った風を受けながら一人歩き出した。



