素直の向こうがわ




「本当は、おまえとあの男とのこと、めちゃくちゃ気にしてたって言っても?」


そう言った河野の表情を確かめようとしても、私をきつく抱きしめて来るから身動きできない。


「本当の俺は、小さい奴で。気にしてないフリして心の奥底でずっともがいてた。でも、それであいつを殴った時、すぐに後悔したよ。おまえとあいつの昔のことなんかどうでもよくなった。おまえがいなくなることの方がずっと怖かった」


河野から吐き出される想いに、私は泣きたくなる。


「河野が私のこと嫌になるまで、もう絶対離れたりしないから。だから……」

「嫌になったりしないよ」


そう囁いた後、河野が身体を離し両手で私の頬を挟んだ。


「馬鹿なおまえも意地っ張りなおまえも素直なおまえも、全部好きだ」


すぐ目の前にある河野の目が熱を帯びる。
そして甘さを含んだその声が耳に届けば、身体中がバクバクと騒ぎ出して呼吸困難に陥りそうになる。この恐ろしいほどの胸のドキドキは、目の前の河野の素の目のせいで加速する。


「離してやるのとか、もう無理だから」

「もう離してくれなくていい」


この想いから逃れることなんて、出来ない。


「……松本、ありがと」


そう呟いたと同時に、私は河野の胸の中にいた。
河野の腕とあったかい胸に包まれて、また涙が溢れ出してくる。

河野と一緒に歩いて行きたい。
河野の傍にいたいと思う。