「……なんで?」


まだ見開いたままの目で河野が私を見る。
初めて見るレンズ越しでない河野の目に、私の心臓は跳ね上がる。
前髪が乱雑に目にかかり、その表情はいつになく憂いを帯びていた。


「河野に言いたいことがあって――」

「……なんで来るんだよ! これ以上、俺を惨めにさせないでくれ!」


河野の悲痛な叫びに、足がすくむ。


「さっきおまえに会った時で限界だった。もう普通にしてられる気力、残ってない。こんな情けない姿、おまえには見せたくなかったのに」


河野が私から顔を背けた。
いつもよりボタンのあいたシャツの隙間に鎖骨がさらけ出されている。
その首筋から鎖骨までのラインだけがそこに残されて、身体全体が私を拒絶していた。


「……おまえが責任感じることないんだよ。こんなところまで来る必要なんて――」

「違うよ!」


それでもまだ私を気遣う河野に、もう私の心はただ河野への想いで溢れかえる。
今にも河野の腕を掴んでしまいそうなのを必死に抑えながら、河野に向かって叫んだ。


「責任とか、そんなんじゃない!」


私は河野の正面に座り、懸命にその顔を見つめた。
私の想いが届いてほしい。


「河野、ごめんね。本当にごめん」

「だから、おまえは何も悪くないから――」

「河野から離れて、ごめん!」


私のその言葉に、河野がゆっくりと顔をこちらに向ける。
眼鏡をかけていないその目が驚いたように私を見つめていた。