河野の家の前に立ち、インターホンを押す。

息が切れて上手く答えられない。
激しく肩を上下させながら、呼吸を整える。
すぐに河野のお母さんが玄関から出て来た。


「あの! 河野君はいますか?」


勢いのまま叫ぶ私に、河野のお母さんはふわりと表情を崩した。


「今、部屋にいるよ。どうぞ」


やっぱり、河野は用事なんてなかったんだ。
私に何も聞かずに、家の中へと促してくれた河野のお母さんの表情に勇気をもらう。


「お邪魔します!」


玄関で頭を下げ、何度も行ったことのある河野の部屋へと向かう。
その扉の前で一回だけ深呼吸をして、ノックをした。
ノックをしただけで部屋からの答えは聞かずに、すぐにその扉を開けた。

もし河野に開けてもらえなかったら困る。

勢いよく扉を開けると、ベッドにもたれ手足を投げ出して座る河野が驚いたように私を見上げていた。


どこかいつもと雰囲気が違うと思ったら、眼鏡をかけていなかった。

近くに放られている眼鏡が目に入る。

その姿に一瞬怯みそうになったけれど、私はもう一度心を奮い立たせて河野の傍に駆け寄った。