私は唇が震えて何も言えない。
河野の堪えるような表情に、胸が抉られるように痛い。


「……ダメだったけど、まあ仕方ない。医学部に絶対はないし、安心出来るラインなんてのもない。ただの実力不足。これで諦めるつもりもないし、また頑張るさ。こんなとこまで来てくれたのにいい報告出来なくてごめんな」


いつもより早口で少し上擦った声。


そんな風にもう無理しないで。
私になんか気を遣わなくていいよ……。


「ごめん、俺、これから行くとこあるからここで。じゃあな」


最後まで不器用で不完全な笑顔を浮かべ、声を絞り出している。
私の涙は今にも溢れてしまいそうだった。

河野が私の横をすり抜けて行く。それと同時に、固まったままの私から涙が溢れ出した。


『辛いのはあんたじゃない。河野だよ』


薫の声がこだまする。
涙が次第に嗚咽を連れて来る。

河野の辛そうな笑顔が目に焼き付いて離れない。

その場の中で一人無関係な私に、行き交う人たちに気の毒そうにちらちらと見られる。

さっきから胸が痛くてたまらない。
胸のあたりのコートをぎゅっと掴む。
激しく暴れ出した心臓に急かされるように走り出した。