背けたくなる目を必死で河野に向け続ける。
見上げている顔が小さく上下しているのが分かる。
そして、その動きが止まる。
私の息まで止まった。
次の瞬間――。
河野はうな垂れるように俯き手に持っていた受験票らしき紙をくしゃっと握り締めていた。
周りで起きている歓声も、喜びを露わにしている笑顔も、すべてすりガラスを通して見ているように見える。
河野から滲み出る思いが私のところにまでたどり着き、私をがんじがらめにした。
気付かれる前に立ち去らなければと思うのに、誰にも見られていないと思ってか無防備に悲しみに暮れているように見える河野を視界が捉えてしまえばそれも出来ない。
河野は掲示板の前から動こうとしなかった。
自分の頬を伝うものに気付く。
胸が苦しくて、呼吸もままならない。
神様、どうしてですか?
どうして、こんなにも苦しめるの?
立ち去ることも駆け寄ることも出来ずにいると、河野が振り切るように動き出した。
私はハッとして慌てて踵を返し逃げようとする。
「松本……?」
それより先に発せられた掠れた声にぎゅっと胸が潰れた。
「心配になって来たのか? 」
第一声とは違う張った声。
立ち止まったままの私のところに河野が近付いて来る。
無理に普通に話しているのが簡単に分かってしまう。
思わず振り向いた先には、更に無理をしていそうな歪んだ笑顔を張り付けた河野がいた。



