式が始まる時間ぎりぎりに学校に着いたから、直接河野と顔を合わせずにすんだ。
3月も中旬の眩しすぎるほどの晴れた日。
式が行われる体育館に向かう途中の渡り廊下から、中庭が見えた。
大きな木を囲むようにベンチが置かれている。
今は誰もいないそこに、あの秋の日の二人が浮かび上がる。
あのベンチで一緒にお弁当を食べて、一緒に勉強して、傍にいられるだけで幸せだった。
河野と一緒にいられるだけで見える景色が全部輝いていた。
河野に見てもらえるだけで、あっという間にただの恋する女の子になれた。
体育館に入り、用意されていたパイプ椅子に座る。
校長の話や来賓の話、それが延々と続くと思われた時、生徒代表による答辞が告げられた。
壇上に上がる男子生徒に、少し会場がざわめいた。
壇上のマイクの前に立ったのは、河野だった。
「停学になったのに、河野君?」
どこからか囁く声が聞こえて来る。
あの事件さえなかったら答辞が河野であることに誰も疑いはなかっただろう。
生徒会長を務め、そして学年トップの成績だったのだから。
もしかしたら、担任や他の先生の計らいなのだろうか。
最後の最後に河野の名誉を挽回させたかったのかもしれない。



